社会学の立場から、近現代の日本社会について研究しています。近年、非典型雇用の拡大という趨勢のなかで、個人の所得やライフスタイルの差異が顕著になり、それとともに、他者に対する寛容性が低下しつつあると言われています。このような状況は、実は、戦前期の日本社会にも当てはまります。戦前期の「格差」の状況とその変転のあり方は、現代の日本社会のゆくえを考えるヒントになります。そうした関心にもとづいて、戦前期の社会の状況やそれが抱えていた問題、そして、現代社会との相違について研究しています。
戦前期の状況のなかでも、経済的な成功者や富裕層が日本の社会や文化のなかでどのような位置を占めてきたのかについて、おもに研究してきました。それらの人々は経済大国を目指す日本の模範者でありましたが、同時に、社会の他のメンバーとのあいだで協働や軋轢を含む多様な関係を持ちました。社会の寛容性・非寛容性の岐路に立っていた彼らについて研究し、その成果を書籍や論文や雑誌記事などに発表しています。
近年、個人の経済格差にかかわる問題は、貧困や非正規雇用の拡大に関連づけて議論されることが多いようです。しかし、今後の日本社会の社会的・経済的な動向をトータルに検討するには、富裕層やエリート層にかかわる問題を含めた議論が必要になってきます。戦前期の富裕層・エリート層の社会的な位置取りとその変化、そして、その変化と深くかかわる昭和戦前期の劇的な社会変化について引き続き研究するとともに、現代と戦前期の社会問題の類似性について考察を深め、研究成果を発信していきたいと考えています。
京都大学文学部卒業、京都大学大学院修了、博士(文学)。名古屋工業大学勤務をへて、2012年より三重大学人文学部教授。
これまで国際日本文化研究センター共同研究員、日本学術振興会特別研究員等審査会専門委員、科学研究費委員会専門委員などを務めた。