世界には豊かな国と貧しい国があります。その中でも東アジアには、20世紀後半に急激な経済発展を遂げた国があるのが特徴です。このような経済発展は突然生じたものではなく、19世紀以来の近代社会の形成のなかで歴史的に生成したものです。私の研究課題は、東アジアの工業化過程を対象として、多数の人々の経済活動が集合的な動きとなって、現代社会の基礎となっている工業化社会の構造や動態が形づくられてきたことを歴史的に究明することです。
日本統治時代の台湾の工業化に関する研究を進め、20世紀前半の台湾では、日本帝国の経済圏に組み込まれながらも、小農社会を維持しつつ中小零細商工業が勃興してくるという台湾独自の特徴をもつ工業化社会が形成されてきたことを明らかにしました。その研究成果は、2021年に『緑の工業化 台湾経済の歴史的起源』(名古屋大学出版会)として公刊しました。その他、専門的知見を活用して『三重県史』の執筆や新聞への寄稿をしています。
アジア経済史には定評のある教科書がほとんどありません。その最大の原因は、日本と中国の近代史を統一的に捉える視点を設定するのが極めて難しいことにあります。この問題を改善して、アジア経済史の教科書を作成することが目標です。そのためには、東アジア各国の近代史を比較しながら分析すること、東アジアと西欧の近代史を比較し、東アジアの特徴を見つけていくことが必要です。こうした歴史研究が東アジア各国の相互理解につながり、平和な社会を作る一助となれば幸いです。
京都府生まれ。1996年京都大学経済学部卒業。2001年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了。2001年台湾綜合研究院海外研究員。2002年より三重短期大学法経科非常勤講師。2009年より三重大学人文学部准教授。
三重県史執筆委員(2014~2018年)、津地方裁判所委員会委員(2019~2020年度)を務めました。
『緑の工業化 台湾経済の歴史的起源』により、第43回「アジア経済研究所発展途上国研究奨励賞」、第47回「中小企業研究奨励賞」経済部門準賞を受賞しました。