白血病は、21世紀初頭から目覚ましい治療法の開発が相次ぎ、根治可能な癌の先駆けとなってきた。例えば、慢性骨髄性白血病は、以前は骨髄移植のような強力な治療を行っても5年生存率が70%前後であったが、現在では、白血病の原因遺伝子異常による異常な分子経路を阻害する飲み薬によって、5年生存率は95%前後と劇的に改善されてしまっている。同様な成功例は、他の癌でも相次いでいる。その一方で、こうした画期的な治療法がないため、根治が困難な例も決して少なくなく、新たな治療法の開発の基盤となる基礎研究は、他の癌の研究への波及する可能性も秘めており、重要性は増してきている。
私は、まず、白血病の原因遺伝子異常の同定から研究を開始し、その後、そうした遺伝子異常が引き起こす、細胞内における白血病発症の分子メカニズムの解析研究に発展させてきた。その結果、後にDNA脱メチル化関連酵素活性を有することが判明したTET1遺伝子の発見、白血病発症における二種類の異なる特性を持つ遺伝子異常の相乗的効果の解明、正常造血幹細胞から生じる白血病起源細胞の重要な特性の一端の解明などの研究成果を上げてきた。
白血病の基礎研究は、分子細胞生物学の進展と密接に関連しており、近年では、細胞一個一個のレベルにまで迫ることも可能となってきた、網羅的に遺伝子の様々な異常を見つけ出していく網羅的遺伝子解析、ゲノムDNAやヒストンの化学的修飾による遺伝子制御を解析していくエピジェネティクス、ノーベル賞も受賞したiPS細胞やゲノム編集といった最先端の手法や研究成果を積極的に取り入れて、これまで未解明の白血病発症の重要な分子基盤を見出して、新たな治療法の開発につなげていきたい。