世界の歴史を学ぶ時、戦争、政変といった大きな出来事に目を奪われがちですが、時代ごとに様々な文化が興り、芸術作品が人々の生活を彩り、また記憶してきました。ウィリアム・モリス(19世紀英国の思想家・詩人・デザイナー)は「歴史は王様や将軍を記録する、なぜなら彼らは破壊したからだ。文化は人々を記録する、なぜなら彼らは創造したからだ」という言葉を残しています。私の研究・教育では、文学史・文化史を通して、歴史・社会と文化の関係性に迫ろうとしています。
イギリスが産業革命を経て近代化していき、ヴィクトリア女王を最高君主に世界各地に植民地を広げていた19世紀の文学と文化を、特に中世主義の観点から研究しています。その時代、近代化・帝国化が本当によいものかと危惧した作家や芸術家らの一部は、古い中世の時代から、原始的でありながらも人間らしい生活を学ぶべきだと訴えました。こうした思想を「中世主義」といいます。例えば、文学分野でのアーサー王ロマンスの復興、建築分野でのゴシックリバイバル、美術分野でのアーツ&クラフツ運動にその一端が見られます。当時の人々の中世への憧れや、中世復興運動の背景にどんな事情があるのか、そして、彼らの思想から現代の我々が学べることは何なのかを、19世紀に制作された文学や芸術作品を通して分析しています。
私の研究キーワードの一つ「アーツ&クラフツ運動」との関連から、民芸などの、自分の生活している地域での芸術文化にも関心があり、高知大学に在籍していた頃は、土佐和紙の歴史の背景にある民芸精神とアーツ&クラフツ運動との繋がりについても研究しました。三重にも多くの民芸があり、また、三重県出身の御木本隆三は、19世紀の思想家ジョン・ラスキンの著作の優れた研究者・蒐集家でもありました。そうした生活地場にある文化・文化史にも今後も目を向けてみたいと考えています。
兵庫県宝塚市出身。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学) (大阪大学, 2009年)。2009年10月より高知大学人文学部専任講師。2013年4月より同准教授。2016年4月より高知大学人文社会科学部准教授(改組による名称変更)。2023年4月より三重大学人文学部准教授。
高知県に古くから残る木造芝居小屋に英米の俳優たちを招き、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の演劇公演を行ったり、ワークショップを行ったりしたことがあります。私の研究・教育の分野を、地域の方々にも紹介する機会を今後も持てればと考えており、それが「社会の中の芸術」「生活の中の芸術」というモリスの思想の実践にも繋がると考えています。