近年の精密有機合成化学の発展にともない、これまで困難と思われてきた様々な有機化合物の合成が可能となってきています。物理化学的・材料科学的に興味深いと考えられるパイ電子系有機化合物を実際に創り出すとともに、その電子状態を探り、それに起因する諸機能の発現を目指して研究しています。とりわけ、パイ電子系有機化合物上に発生した複数の電荷やスピンの示す振る舞いを基礎レベルで理解することが,分子エレクトロニクスに真に資する有機分子材料への応用展開につながると考えて日々研究を進めています。
通常の環境下で安定に高スピン状態を維持する種々の有機分子系の開発に成功するとともに、分子上に発生した電荷の分子内移動現象に関する詳細で有用な知見について、様々な結合様態・分子構造有するπ電子系分子を合成し、分光学的手法・量子化学的手法を用いて明らかにしてきた。また、新しい分子設計指針に基づく発光性有機分子材料の開発、分子エレクトロニクスデバイス中の電荷担体を制御する上で重要な有機分子ドーパントの開発やそのドーピング機序に関する研究にも従事してきた。
省エネルギー化に貢献する有機エレクトロニクスデバイスに資する分子材料、とりわけ、多段階発光色素分子材料や将来のスピンエレクトロニクスデバイスに応用可能な磁性有機分子材料の開発を進めます。また、窒素リッチな炭化水素材料を用いた太陽光による効率的な光電変換を可能とする分子材料の開発も進めていきたいと考えています。
レドックス反応に伴なってスピン多重度が高くなる磁性有機分子材料の例
固体発光性有機分子材料の例
1995年京都大学大学院工学研究科分子工学専攻博士後期課程修了(博士(工学))。日本学術振興会特別研究員を経て、1997年京都大学大学院工学研究科助手。2004年より1年間オランダ王国デルフト工科大学(TU Delft)カブリナノサイエンス研究所訪問研究員。2006年京都大学大学院工学研究科助教授、2007年准教授を経て、2021年から現職。