我々人間は何かしらの言語の母語話者であり、6歳くらいまでに母語の知識を獲得すると言われています。ですが、「私たちは○○語(たとえば日本語)を知っている」と言ったとき、言語の知識として我々が実際に何を獲得している・知っているのかは、まだ解明されていません。言語の知識はほとんどが無意識のものだからです。私は、人間言語の知識がどのようなものなのかを解明すべく、主に文構造(統語)と意味の側面から研究をしています。
自然言語(人間の言語)は、他の動物のコミュニケーションシステムとは異なる特徴をいくつか持っているとされています。例えば、自然言語は目の前で起こっていないことについて描写することができ、我々は未来の話や架空の話などをすることができます。人間の言語知識の解明は、人間とは何か、人間を人間たらしめているものは何かという問いの解明に貢献できる可能性があります。
上で述べた以外にも、自然言語の特徴として「回帰性」(繰り返し性)という性質が挙げられます。回帰性が端的に観察できる現象として、文(節)の埋め込みがあり、例えば日本語では「太郎が次郎を見た」、「ジョンが [太郎が次郎を見たと] 言った」、「メアリーが [ジョンが [太郎が次郎を見たと] 言ったと] 思っている」というように、節を繰り返し埋め込むことができます。
現在は、このような文の埋め込みを観察できる引用表現に興味があり、様々な言語の引用表現について、主に文構造と意味の観点から研究を行っています。