20世紀のドイツ社会は、戦争や社会の大きな変化を経験し、人々のものの考え方や価値観が大きく揺れ動いた時代でした。文学作品には、そうした時代の空気や、人々が感じていた不安や希望が、日常の言葉として丁寧に書き留められています。本研究は、これらの作品を読み解くことで、当時の人々が社会や歴史とどのように向き合っていたのかを明らかにし、現代社会を考えるための手がかりを見いだすことを目的としています。
とりわけ20世紀の戦争体験や社会変動を主題とした作品を精査し、作家や思想家たちが「危機」という状況をどのような物語構成、概念、表現で描いていたのかを明らかにしました。とくに、戦争や技術の進展によって既存の価値観が揺らぐ中で、作家たちが不安や混乱をそのまま描くだけでなく、新しい社会像や人間像を構想しようとしていた点を具体的に示しました。これにより、文学が当時の社会認識や将来像を形づくる役割を担っていたことを、作品分析に基づいて示しています。
今後は、20世紀ドイツの日記文学に注目し、個人的な記録の中に現れる「危機」の言説を分析していく予定です。日記は私的な文章でありながら、社会不安や政治状況への反応が率直な言葉で書き留められる場でもあります。本研究では、日常的な記述の中に潜む社会認識や時代意識を読み解くことで、公的な言説とは異なるかたちで表出する「危機」のあり方を明らかにし、文学と社会の関係をより多角的に捉えることを目指します。
京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程、日本学術振興会特別研究員(DC2, PD)を経て、2019年より三重大学人文学部特任講師、その後2021年より現職。