私はこれまで、「老いる」とは何を意味するのかという問いを軸に研究を進めてきました。老年期の経験や生き方に見られる個人差に注目し、その多様性を人類学的視点から捉えることで、「老い」をめぐる多面的な課題を考察することを主なテーマとしています。
これまで、東海地域および沖縄県を中心にフィールドワークを行ってきました。とりわけ、沖縄県の都市部を事例とした「老いる」ことの人類学的研究では、老年者の日常生活に着目し、「老い」のあり方を検討しました。対象地域である沖縄県都市部において、老年者の個人性を手がかりに、画一的に語られがちな「高齢者」像や抽象化された老いには還元されない、多様な老いの姿や老年者個々のあり方を明らかにすることを目指しました。
現在は、「きたるべき死」までを視野に入れた老いのありようを明らかにすることを目的として、沖縄県那覇市および沖縄県北部を対象とした調査を進めています。「きたるべき死」をめぐるテーマとして、老いの準備や死への備え、とりわけその一端をなす終活の実態に焦点を当てています。
また、所属する海女研究センターでの研究として、鳥羽志摩の地域史・個人史に関する文献調査および聞き取り調査にも取り組んでいます。第一に、伊勢志摩の海女さんを対象としてライフストーリー調査を行い、彼女たちが語る多様で固有の人生経験を通して、文化・社会・人々に根ざした生活のあり方を明らかにし、さらに地域の生活史の再構成を試みます。