パプアニューギニアのラバウルという町の周辺で用いられている貝殻貨幣について研究しています。「まだそんなものを使っているのか」と思うかもしれませんが、それは19世紀後半に白人の植民者たちも言っていたことです。「市場経済が浸透すれば、貝殻貨幣など無くなるだろう」と。
ところが150年以上が経過した現在でも、ラバウルの人びとは銀行のキャッシュカードで現金を引き出し、スマホで電子送金しながら、貝殻貨幣を使い続けています。現実には市場経済と貝殻貨幣は共存するものなのです。
このような状況で「まだ」と評されるべきは誰でしょうか。それは「市場経済化が進み、法定通貨が浸透すれば貝殻貨幣は姿を消す」という現実にそぐわない「常識」を、150年以上も変わらず「まだ」信じ続けている私たちの方です。
文化人類学は、私たちとは異なる生活環境や社会状況を生きる人々の生活の営みを見ることを通して、常識を相対化し、あたりまえだと思っている世界のあり方を問い直し、拡張しようとする学問です。
文化人類学という学問は、なにか医学や工学のように、なにか直接的に人間を助けたり、建物を頑丈にしたりというかたちで「役に立つ」学問ではありません。
しかし、グローバリゼーションが進行し、多様な文化や地域の人びとが共に生きていかねばならない現代社会において、他者に対する自分たちの見方がどのようなものであるかを俯瞰して捉え直し、その見方が歴史的・社会的にどのように作り出されてきたのかを考えることができるのは、市民にとって極めて重要な教養であると私は考えます。
これまでも市民講座などでの文化人類学の講義は行なってきましたので、そのような活動は継続していくつもりです。また今後は海女センターを拠点に文化人類学的なフィールドワークを通じて、地域文化の研究や保存、振興にも関わっていければと考えています。